水星に大量の水
2012.11.30
水星の北極地域
 
水星探査機メッセンジャーによる北極付近の画像にレーダー検出の結果(黄色)を重ねたもの。クレーターと一致しているだけでなく,比較的低緯度のクレーターでは南側に集中しているのもわかる。
メッセンジャー・イメージ
極の火口
 
 太陽に最も近いため,温度が高すぎて水の氷など存在しないように思われる水星でも,極域のクレーター内部に水の氷がある可能性は以前から指摘されていた。自転軸の傾きがほぼゼロに近いので,クレーターの内部には1年を通して日が射さないところもあり,温度の条件は整う。月の水も多くはこうした永久影で見つかっている。
 1991年,プエルトリコにあるアレシボ天文台のレーダー観測から極付近に点在する明るい領域が見つかり,それが1970年代にNASAの水星探査機マリナー10号がとらえたクレーターの位置と一致していたことで,氷の存在の可能性はさらに高まった。
 マリナーの探査は水星の全地表の半分以下しかカバーしていなかったが,メッセンジャーによる昨年から今年はじめにかけての探査で,レーダーで見つかった南北両極の明るい部分が,全て実際に陰となっている部分であることが確認された。氷の総量は「ワシントンD.C.と同じ大きさに広げると厚さが3kmほどになる量」(発表者の一人,David Lawrenceさん)という。
 こうした明るい部分はすべて,氷が安定して存在できる温度であると予測されていた領域で,氷が地表にむきだしになっている。少し温度が高すぎると考えられる場所の表面には光を反射しにくいひじょうに暗い物質があり,メッセンジャーによる水素の測定から,熱を通さない厚さ10~20cmの表層の下に氷が埋まっていると考えられる。
 一連の発表者の一人David Paigeさん(カリフォルニア大学)によれば,この暗い物質は彗星や小惑星が運んできた有機化合物と見られる。こうした物質と一緒に、太陽系内部の惑星に水がもたらされたと考えられている
(AstroArtsより)
NASA
探査機メッセンジャー
 メッセンジャー以前に水星に接近した探査機には1974年から1975年のマリナー10号があるが,表面の僅か45%しか撮影されておらず,水星は太陽系で最も探査が遅れている惑星の一つだった。水星の探査が困難な理由に,太陽から受ける膨大な熱,電磁波による通信障害,水星の公転速度が大きいことなどがあったとされる。
 2000年代に入って太陽系形成の理解を深めるため,ようやく水星へと興味が注がれてきた。そして,次々に探査機を水星へ送る計画が立てられた。その1つがメッセンジャーである。
 マリナー10号の調査では,水星の物理的な性質以外ほとんど分からなかったため,メッセンジャーでは水星を構成する物質,磁場,地形,大気の成分,などが調査される。
 探査機は燃料節約のため数回のスイングバイを行いながら水星に接近する。その結果,地球から水星まで最短距離では約1億kmのところを,79億kmもの軌道を辿ることになる。(ウィッキーペディアより)
 
水星の火山活動
 水星には火山性の堆積物が存在していたかどうか,というのがこの10年ほど議論になっていた。メッセンジャーが軌道投入されるまで3回水星へ接近し,その際に堆積物が存在しているらしいことはわかっていたが,どの程度の規模なのかという点はまだよくわかっていなかった。
 メッセンジャーによる本格的な探査の結果,北極周辺の広い部分で火山性の堆積物が見られ,水星全体でも6%以上の領域になめらかで平らな表面が確認された。この火山性堆積物の厚さは,部分的にはおよそ2kmにもなるほど厚いものであった。
 このような堆積物の元となった溶岩の噴出口(火道)の多くは堆積物の下に埋もれていると考えられているが、長さ25kmにもなる火道も発見されている。また火道の付近では組成が他と違った,地球で見られるコマチアイトのようなものが見られているが,これらと何か関係があるのかもしれない。
 今後は水星全体での火山性堆積物の地図を作ると共に,水星の火山の歴史を探っていくこととなる。
 
水星の表面状態
 水星の表面にはこれまで見たことのないような地形が発見されていた。クレーターの中央丘やその周囲に見られる,とても明るく,他の領域と比べてやや青みがかったものだ。このような地形は月では見られたことがなく,「メッセンジャー」による詳細な観測が待たれていた。
 メッセンジャーによると,この領域は不規則な形をした小さくて浅いくぼみが集まったものであることがわかった。これらのくぼみは水星で見られる他の穴とは違ったもので,緯度経度を問わず水星全体のあらゆる領域で見られた。くぼみの中には明るい物質があり,小さな衝突クレーターの集まりではなく,比較的新しいものであると言えそうだが,詳しいことはまだよくわかっていない。
 メッセンジャーはガンマ線検出器とX線検出器を用いた表面の元素組成のマッピングも行っている。それによると,水星の表面には予想以上のカリウムが存在しており,月や他の惑星と比較して表面の平均組成が大きく異なっていることがわかった。
 今回の新しい結果は,水星は他の惑星と比較して密度が大きいために鉄に富んでいるだろうという予測を否定するもので,水星全体の組成は始原的な隕石と同じようなものではないかと期待されている。
 
水星の磁気圏
 メッセンジャーは水星の磁気圏も探査している。地上からの観測で水星には中性ナトリウムの大気があることが観測されていたが,今回メッセンジャーは極付近にイオン化したナトリウムが集まっている領域を発見した。水星にあるナトリウム原子が太陽風によって電子を剥ぎ取られ,イオン化しているものと考えられる。
 また,水星の磁気圏にヘリウムイオンも存在していることがわかった。これらのヘリウムは太陽風という形で水星の表面に打ち込まれ,その後様々な方向に放出された結果,観測されたものと考えられる。
 水星探査については,日本とヨーロッパが共同で「ベピ・コロンボ」という探査機を開発している。ベピ・コロンボは磁気圏から表層,内部構造までを対象とした,水星の総合的な理解のための探査計画が立てられており,2014年の打ち上げを目指している。(AstroArts)