もともとは火星の大気は厚かった
2012.11.02
 火星の大気の変化を理解することは,過去に火星が生命に適した環境だったかどうかを判断するのに重要な要素である。現在の火星には地球のわずか100分の1程度という非常に薄い大気しかないが,NASAの探査車キュリオシティの分析から,過去に大気が失われたという根拠が得られた。
 キュリオシティがゲールクレーター内のロックネストという場所で採取した大気サンプルを分析したところ,大気に含まれる二酸化炭素を構成する炭素のうち,重い同位体の比率が火星誕生間もないころにおける推定比率より5%増加していることがわかった。これはかつて上層大気の軽い同位体が宇宙空間に流失した可能性を示している。またアルゴンの場合も重い同位体の比率が増加しており,地球に落ちた火星起源の隕石を調べて得られた大気組成と一致している。
 この結果から,はるか昔の火星は現在とは全く異なり,豊富な水と厚い大気が存在していたという推測ができる。上層大気の過去の流失についてはNASAの探査機MAVENが2014年に到着してさらに調べる予定である。
 キュリオシティはさらに,メタンガスの分析も行った。地球では生物学的なプロセスでもそれ以外でも作ることができ,生命の単純な構成要素として調査の対象となっている物質だが,火星大気にはごく微量にしか検出されておらず,地球や上空の周回機からの測定は難しい。今回の高精度な測定からも,メタンガスの量はほとんど観測されなかった。
 ゲールクレーターでは,メタンは大量に存在しないことが分かったが,メタンを捜索するということ自体が興味深い。この場所でごく微量しか検出できなくても,火星の大気が場所によって異なり,意外な発見があるかもしれない。
 キュリオシティは今後数週間のうちに,今回使われた「SAM」と呼ばれる分析装置で,岩石や土壌に含まれる有機化合物の分析も行う予定である。含水鉱物と炭酸塩の検出と分析が今後の優先ミッションになる。
 大気と土壌の両方を分析することで,火星の過去の生命環境の理解が大きく進展すると考えられる。
(AstroArtsより)
NASA