ハッブル望遠鏡
2012.09.20更新
 天文学者は,地球の大気圏外に望遠鏡を打ち上げたいと考えた。地球の大気は何層にもわたって私たちを守ってくれる多重バリアーの役割をはたしてくれている。しかし,見方を変えると,宇宙からやって来るX線や紫外線など,遠くの銀河からやって来る情報が大気にさえぎられて,有力な情報が手に入れにくいということでもある。
 1970年代,NASAがスペースシャトル計画に本格的に取り組みはじめたことで,大望遠鏡を地球周回軌道上に置き,宇宙飛行士によって定期的に点検・修理をする,という可能性が開けた。これは多くの機能をもった複雑な望遠鏡を打ち上げられることを意味していた。維持・補修ができるだけでなく,古い装置を最新の技術を使った装置にとりかえることで,つねに望遠鏡を最高の状態に保っておけるからである。アメリカ科学アカデミーが検討をはじめたこの計画は,やがてハッブル宇宙望遠鏡として実現されることになった。
 スペースシャトル・チャレンジャー号の悲劇的な事故のために,予定より四年遅れの1990年,ハッブル宇宙望遠鏡は打ち上げられた。
 打ち上げ直後に球面収差と呼ばれる深刻な光学的欠陥があることが発見された。打ち上げ直後の調整で天体の光を集める鏡の端が設計より0.002mm平たく歪んでいることが発覚。この誤差により分解能は予定の5%になってしまった(ただし5%でも地上の望遠鏡より遥かに高い分解能を有していた)。
 ハッブル望遠鏡は完全なピンボケ状態ではなく,入ってくる光の15%は焦点に集まる。残りの85%を切り捨てて,有効な15%を最大限に生かす画像解析ソフトを開発することで,その精度を設計値の58%まで回復させた。
 この方法は現在医療分野で役立っている。もやもやとしたガス雲の中から星のような点源を見つけるために開発された方法が,乳房の中にできつつある乳がんの小さなしこりを見つけるのに使えるのだという。
 とはいっても,情報量がある程度ある場合はいいが,遠くの銀河は暗く情報そのものが少ない。
 この欠陥は1993年12月におこなわれた第一回のサービス・ミッションのさいに,望遠鏡に補正光学系を挿入することで解決された。それ以来,ハッブル宇宙望遠鏡は順調に機能しており,これまでに得られたことのない多くの情報を天文学者に提供し続けた。
 1993年12月のサービス・ミッション以降も1997年2月,1991年2月,2002年3月と,3回のサービス・ミッションが行われ,観測装置をより精度の高い,最新技術を使ったものと交換することで,ハッブル望遠鏡の性能は向上をし続けた。さらに,画像処理処理の技術の進歩と合いまって,写真が驚くほど精緻なものになっていった。
 2004年1月,ブッシュ大統領の新宇宙政策構想の発表後,2006年におこなわれるはずだった第5回サービス・ミッションがキャンセルされた。サービス・ミッションの中止は,ハッブル望遠鏡の死を意味する。
 
 2006年10月31日,方針を転換し,5度目のサービスミッションを行い2009年7月24日,画像を公開した。
 
ハッブル宇宙望遠鏡の成果
シューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に衝突する様子を克明に捉えた。(1994年)
太陽系外の恒星の周りに惑星が存在する証拠を初めて得た。
銀河系を取巻くダークマターの存在を明らかにした。
宇宙の膨張速度が加速しているという現在の宇宙モデルはハッブル宇宙望遠鏡の観測結果によって得られた。
多くの銀河の中心部にブラックホールがあるという理論は、ハッブル宇宙望遠鏡の多くの観測結果によって裏付けられている。
1995年12月18日〜28日,おおぐま座付近の肉眼でほとんど星のない領域について十日間に亘り観測を行い,「ハッブル・ディープ・フィールド」と呼ばれる千五百〜二千個にも及ぶ遠方の銀河を撮影した。これに続き,南天のきょしちょう座付近において「南天のハッブル・ディープ・フィールド」 (Hubble Deep Field - South) 観測を行った。 双方の観測結果は非常に似かよっており,宇宙は大きなスケールに渉り均一であること,地球は宇宙の中で典型的な場所を占めていることを明らかにした。