Ia型超新星の残骸
2008_08_20
 1006年の5月1日ごろ,深夜の南天にひじょうに明るい星が出現したことが,日本や中国,エジプト,ヨーロッパなどの記録に残されている。その明るさは金星をはるかに上まわり,史上もっとも明るかっただろうと考えられる。
 それから2年半も肉眼で見え続けたが,やがて消え去った。そして1960年代半ばに,その痕跡が電波で検出された。その正体は、われわれの天の川銀河の中,7,000光年という至近距離で起きた超新星爆発(超新星1006)と考えられる。超新星1006は「Ia型超新星」と呼ばれる特殊なタイプだったと判明している。
 Ia型超新星は,白色矮星のまわりを別の恒星が回っていて,白色矮星が恒星からガスを吸い取るような連星系があると,白色矮星は一定の質量になった段階で不安定になり,大爆発を起こす。絶対光度が必ず一定になり,しかも標準的な超新星より明るいという特徴がある。このことから現代でも超新星1006の光度が正確に推定でき,しかもそれが史上最大だったと言うことができる。
 球状に広がった超新星残骸のうち,可視光でとらえられるのは最外縁のごく一部である。NASAのハッブル宇宙望遠鏡がとらえた可視光画像には,そのうちもっとも明るい部分が写っている。今でも衝撃波が時速1,000万kmほどで広がっていて,周囲の淡いガスを加熱し,輝かせている。
 一方,NASAのX線天文衛星チャンドラと地上の電波望遠鏡などによる撮影データを重ね合わせた画像では,残骸の形がはっきりと浮かび上がっている。爆発から1000年が経過して,見かけの大きさはほぼ満月程度に広がった。実際には、直径が60光年もある。
 これらの画像は、米国の独立記念日に合わせるように公開された。Ia型超新星爆発の特徴は,中心に中性子星やブラックホールを残さずにすべてが星間空間へと吹き飛ぶ点にある。惑星や生命の材料となる重い元素は恒星の核融合反応でしか形成されない。それが完全に解放されるのは,Ia型超新星爆発だけ。超新星1006の残骸は,元素の独立を記念している,というわけだ。(AstroArtsより)
Hubble