小マゼラン雲にあるNGC 346
2005_11_10
 黒く,白い(単色)イメージは,最も現実的な色で,単一像中で明るさの範囲を表わしている。 カラー画像は異なるフィルタを通って作られ,各イメージごとに別個の色を,組み合わせることによりつくられる。
 
 このイメージは,HSTが撮影した星形成領域の中でも,もっともダイナミックにして繊細な姿である。21万年光年離れた,小マゼラン雲にある星団NGC 346の中で星が誕生している。周囲の星雲が複雑な形をしているのは,星団中の若くて高温な星によって吹き飛ばされたからである。
 天の川銀河の伴銀河と見られる大・小マゼラン雲では、数々の星形成領域が見つかっている。そこは若い星が周辺の環境とどのような相互作用を起こし,どう変えてしまうかを知りたい天文学者にとって格好の領域で,HSTによって数々の観測がなされてきた。特に劇的な変化を起こすのは,若くて高温で青い,巨大質量星の青色巨星である。そして,小マゼラン雲で見つかっている巨大質量星の実に半分以上が,このNGC 346にある。
 写真中央のNGC 346は少なくとも3つの集団に分かれていて,数十個もの巨大質量星が存在する。そこからは絶え間なく太陽風や強力な電磁波が発せられているので,かつてその恒星たちをはぐくんできたであろう星雲は吹き飛ばされてしまう。しかし,星の放射は無抵抗で外の世界に出て行くわけではなく,星雲の密度の大きい部分にぶつかる。星雲の外側にシルエットのように写っているのは,その衝突によって作り出された構造である。チリとガスの密度が特に大きかったところが,とばされずに取り残されている。星雲から見れば,急流に逆らう川藻のようである。中心の恒星から見れば,やわらかい部分からひたすら削っていった彫刻作品みたいなものかもしれない。
 もっとも,巨大質量星と周りの星雲だけではない。とりわけ天文学者が注目しているのは,まだ登場してないスターたちだ。すなわち、300〜500万年前に形成され,まだ核融合反応によって輝くほどに収縮していない星である。
 こうした星はNGC 346の中のいたるところにあると考えられる。中心の明るい星団を取り巻くように,いくつかのミニ星団が見られるが,中にはまだ星雲に取り囲まれ星形成が進んでいるものもある。密度が大きいために吹き飛ばされずに残っている雲でも,星が生まれていると考えられる。新しく星が輝きだしたとき,この星雲も大きく姿を変えると考えられる。
Hubble