星の進化
2003_08_07
 
 この球状星団はNGC6397というカタログ番号の天体で,地球から8,200光年離れたさいだん座にある。球状星団としては最も近いところに位置する天体の一つである。非常に恒星の密度が高く,星と星との間はわずか数光週しか離れていない。そのため,星同士の衝突やニアミスがよく起こる(よく起こるとは言っても,数百万年に1度という程度である)。
 星同士が衝突すると,「青色はぐれ星(blue straggler)」と呼ばれる高温で明るく輝く若い星が誕生する。また,ニアミスを起こした星はお互いの重力で引き付けあって連星となる。特に普通の恒星と白色矮星が連星となると,激変星というタイプの変光星となって観測されるようになる。
 激変星は強い紫外線や青い波長の光を放射するので,この波長で球状星団を観測して激変星を探す研究が行われた。その結果,期待通りにいくつかの激変星が見つかったが,同時にまったく明るさの変化しない恒星も3つ見つかった。
 この星々は,低質量の白色矮星ではないかと考えられている。普通の白色矮星へと進化する途中の段階で,周囲の星と衝突したり星から影響を受けたりしたため,最後まで進化できなかったのかもしれない。美しく見える球状星団の中心部は,実は星がひしめき合う危険な場所でもあると考えられる。
 
Hubble
 
2006_08_17
 球状星団は銀河の"化石"と呼ばれるほど,年老いた星ばかりで構成されている。推定されている年齢は宇宙年齢にも匹敵するほどなので,多くの天文学者の興味をひいてきた。球状星団の年齢を調べる方法として,他の星よりはるかに暗い天体である白色矮星を観測する手法がよく用いられる。白色矮星は太陽質量の8倍以下の恒星が核融合を終えたときに残る,徐々に冷えていく天体である。時間と共にどれだけ温度が下がるかは予想可能で,どれだけ冷えたかがわかればどれだけ年をとっているかがわかる。宝石箱の中でもっとも暗い星たちにこそ,もっとも高い価値がある。
 この観測を行ったのは,カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のHarvey Richer氏が率いるカナダ,アメリ,オーストラリアの研究者のチーム。地球にもっとも近い球状星団の1つ(8500光年),NGC 6397をHSTで撮影した。高い分解能のおかげで,球状星団の星と,手前および奥にある星とを区別できるという。念のために過去の画像も調べ,球状星団に属する星は固有運動が一緒であることを確かめてそれを裏付けた。
 撮影された画像には白色矮星とともに,核融合を起こしている恒星としてはもっとも小さい種類の「赤色矮星」も数多く写っていた。もっとも暗い白色矮星は28等級で,もっとも暗い赤色矮星は26等級。月面上のろうそくの炎を見ているようなものだという。
 普通,天体の輝きは温度が下がるにつれて白から赤へと変わる。単純に言えば,古くて冷えた星ほど赤い。しかし,今回見つかった白色矮星の中には,あまりにも温度が下がったために表面上で化学反応が起き,逆に青くなっているものもあった。この現象は予言されていたにもかかわらず,今まで見つかっていなかった。逆に言えば,今回見つかった白色矮星がそれだけ古くて暗いものだということを意味する。
 白色矮星の観測から,NGC 6397の年齢は120億歳近いことがわかった。ビッグバンからわずか20億年で誕生したことになる。その誕生の経緯や,120億年近い生涯については,白色矮星や赤色矮星を含めたすべての星を分析することで明かされていくと考えられる。(AstroArtsより)
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