プレアデス星団に潜む幽霊
 2000.12.06
 この不気味な画像は、M45 プレアデス星団 (日本名=すばる) を構成する星のひとつ「メローぺ」のごく近くにある星雲「IC349 バーナードのメローぺ星雲」(1890年にアメリカの天文学者バーナードが発見) を強拡大撮影したものである。この星雲は,冷たいガスと塵から成り,自らは光を放たず,メローぺからの光を反射して輝いている。このように,恒星の光を反射して輝いている星雲を反射星雲という。
 プレアデス星団は,約380光年の距離にある誕生から5,000万年程度のとても若い星の集まりで,「おうし座」の肩の部分にあたり,肉眼でも容易に確認できる。並程度の視力の人であれば,肉眼で6〜7個の星を確認することができる。このため,ギリシア神話に登場する7人姉妹「プレアデス」にちなんでこう呼ばれている。
 多くの場合,若い星団を取り巻く星雲は,星団の原料の残余物である。しかし,プレアデス星団に見られる星雲は,実は星団の生成とは関係ない独立した星間ガスが,偶然にも星団と高速で交差しつつあるものである。IC349の場合,メローぺとの相対速度は毎秒約11キロメートルにも達する。
 IC349は,プレアデス星団を取り巻く淡い星雲の中では最も明るい部分である。なぜなら,IC349は星団の中でも最も明るい星のひとつであるメローぺからわずか0.06光年 (太陽〜地球間平均距離のおよそ3,500倍) という至近距離にあるためである。
 この画像では,メローぺは視野の上辺右側のすぐ外に位置する。上辺右側から延びるカラフルな直線状の筋は,メローぺからの光が望遠鏡の光学系により散乱されて生じているものであり,現実のものではない。だが,星雲から右上に延びる筋は現実のものであり,HSTの優れた解像力により今回初めて発見された構造である。
 今回この観測を行なったGeorge Herbig氏とTheodore Simon氏 (ともにハワイ大学) によると,星雲がメローぺに接近するにつれ,メローぺからの強い光が星雲を構成する塵の接近速度を弱める。この現象は,「放射圧 (radiation pressure)」と呼ばれるものである。この際,小さな塵は大きな塵に比べて大きく減速される。したがって,IC349の構造は,小さな塵は接近を阻まれて左下にかたまり,大きな塵が右上へ向かう筋を形成しているのではないかという。
 今後2000〜3000年のうちにIC349がメローぺとの接近により完全に破壊されることが無ければ,IC349はメローぺと交差することになる。このめずらしい現象は,恒星間物質やその構造についてより多くを知るための良いチャンスとなると考えられる。
 1999年9月19日,広視野/惑星カメラ2による撮影。露光時間は18.3分。
(AstroArts より)
Hubble